王子の結婚


「ユナにとって政略結婚なことに変わりはない
でも僕にとってはそうじゃない
僕が君を選んだんだ」

真っ直ぐ向けられた瞳
ソウの瞳に射抜かれて動けない
じわじわと胸にこみ上げてくる思い
うまく言葉にできなかった

「…ソウ王子が…私…」

優しく微笑んでユナを抱き締める

「あの時ユナを選んだのは、僕の気持ちを分かって抱き締めてくれた君がいいと、本能的に思ったから
でもきっともう惹かれてたんだ
無邪気さも優しさも、そして少し大人びたところも全部可愛くて
僕の気持ちを丸ごと抱き締めてくれたあの時、僕は君に恋をしたんだ」

気付いたら涙がこぼれていた
抱き締められたソウの胸元を僅かに濡らす
それは長い長いソウの片思いの告白


「僕の気持ちを疑わないで」

上辺で愛せるほど軽い気持ちなんかじゃない
淡い初恋から真実の愛に変わる時間は十分過ぎるほどあった
長過ぎるその時間は狂おしいほどに愛情を募らせた
それがやっと自分の手元に…

「僕は君以外愛せないんだ
会えなくても君だけを想ってきた
誰にも渡さない」

力強くユナを抱き締める



痛いほどの想いが伝わってくる
知り得なかったその事実にユナはこれ以上ない幸福を感じた



「兄上が言ってたのはたぶん、君の家の従者から聞いた、僕とユナの関係だと思う
あの時、僕はカイと名乗ったから」

カイとの間でも同じようなやり取りがあったとは思えない
じゃあ何故そんな嘘をつく必要があったのだろうか

「兄上はね、ユナの家の稼業を手中に収めたかったんだ
だからあの頃、兄上は僕を連れて街に下りていて、君の父上と交渉していたはず
でもそれが上手くいかなかったんだろうね、ユナのお姉さんと結婚して、内から攻略しようとしていたんだ」

ああ、ここでもまた政略結婚なんだ…

「でもユナの父上と交渉決裂したあとだから、直接ユナのお姉さんにアプローチしようと思ったんだろうね
だからユナの家に通っていて、そこで僕とユナのことを聞いたんだと思う
君の家の従者は“カイ”の名を聞いてそうだと思っただろうし、また兄上も自分の名を騙る者が、素性を明かせない僕だと気付いたはず」

カイがそんな打算的な人だということが信じられない
自分の利益のために姉上を利用しようとしたなんて

「僕の婚約話が出る頃まで兄上は通っていたはずだから
病から回復したユナは家にいる時間も増えて、兄上と遭遇することもあっただろう
あの綺麗な兄上だからね、印象に残ってたのかな…」

少し寂しそうな声音
カイの容姿に既視感を感じたのは、確かにそのせいなのかも知れない

ソウの存在が曖昧になって、でも完全に記憶からなくなっていたのでもなくて、“カイ”と名乗ったその人と重ねていたのなら
すべて辻褄が合う




でも何故カイはユナにそんな嘘を?

「兄上は計算高い人だよ、頭もキレるし行動力もある
目的のためなら手段も選ばない」

ソウはカイを慕っていたんじゃないの…?
微かに重苦しい表情を匂わす

「兄上がそんな嘘を口にして君に近付いてきた
すぐにばれるような浅い嘘をついて
利用できる者は利用する人だ
ユナを巻き込みたくない
兄上には絶対に近付かないで」


兄をまるで敵のように言う
ソウが何を抱えているのか、ユナには計り知れない