すぐとはいかなかったが、娘を見る母親の目が温かいものに変わっていった
そして、父親と母親の距離も、次第になくなっていった
「崩壊しかかっていた我が家を救って下さったのは皇太子殿下です
ユナの笑顔が戻ったのは皇太子殿下のお陰です
そしてそのお陰で家族を取り戻すことができました」
自分よりも遥かに年下な皇太子に深々と頭を下げ、心の底から感謝を伝えた
あの時、会えなくなったのは病気を患ったからだと知った
そして、僕の方も行けなくなった
あの子はまた来ているだろうか、と何度か思った
でもきっと来ることはなかっただろう
父親からの愛情を取り戻し、そして母親からも…
僕のことを覚えていない
ショックだった
何故かひどく悲しかった
でもそんな顔は見せない
「皇太子殿下のためになら何一つ、助力は惜しみません
至らぬ娘ですが、しっかり者の長女です
きっと皇太子殿下の支えとなりましょう」
そう、婚約相手はあの子の姉だ
やはり何も感じない相手
ふと頭に浮かぶのは、あの時泣いて笑って、心を見せてくれたあの子
「では僕のお願いを聞いてはもらえないだろうか?」
その言葉に彼は気を良くしたようだった
「何なりと」
きっと思ってもみない言葉だっただろう
「やはりこの婚約話はなかったことにして下さい」
言葉もなく吃驚しているようだった
誰と結婚しても同じなんだ
あの時、あの子にはいた弱音を思い出す
もう二度とあんな思いはしたくない
「それは…さすがに私の一存では…」
彼が困惑するのは分かる
でももう心は決まっていた
「確かに婚約を白紙にすることは難しいでしょう
王はきっと許さないと思います
ですが、ヘルベルト家との結び付きさえあれば問題ないのでは?」
一瞬鈍い顔をした
僕が婚姻を結ばずとも、恩返しのために無償で援助しろと言っていると思ったのだろう
そこまで卑劣ではない
たぶん無意識だった
自然と口をついて出た
「ユナがいい…」
小さく呟いたその声に『えっ?』と聞き返す言葉が聞こえた
「僕にユナを下さい」
