母親は主人である父親に心酔していた
自分の容姿にもひどく自信があった
成長していくに連れて、どんどん愛らしくなっていく娘
母親の血を受け継いで、母親以上に麗しさを増していく
そして父親も上とは離れて生まれてきたその娘が可愛くて仕方なかった
でも母親はそれが気に入らなかった
自分よりも可愛がられていること
自分よりも綺麗になっていくこと
自分の娘に嫉妬していたのだ
上の娘は母親譲りで可愛らしかったが、自分を超えてはいない
でもこの子は自分より美しくなっていく
それが恐怖だった
主人も美しさも娘に奪られる
そんな幼い感情から娘を拒絶していった
娘を可愛いがれば可愛いがるほど、母親から娘の仕打ちが激しくなっていく
それに気づいて父親が止めに入れば、さらに荒れた
それほど娘が可愛いのかと
そして父親は距離を置くことを選んだ
娘が自分たちの愛情を欲していると知りながら、目を背けた
そして気がつけば感情を出さない子になっていた
母親からの逆鱗に触れないように
父親からの距離に嘆かないように
だから邸の中は居心地が悪かったのだろう
度々抜け出していた
そして家の庭とも言える、あの林で独り佇む
幼い娘が一人で出て行くのはもちろん心配だったが、付いていくのを母親に見付かれば何を言われるか分からない
息子を指導する中、影ながら様子を見ていた
だから皇太子といたあの時も、見計らったようなタイミングで出てこれた
あの時から娘は少しずつ表情が出るようになった
疎んでいる母親や、父親の前では相変わらず無表情だったが、従者の前では笑うようにもなり、林で会った“お兄ちゃん”の話もしているようだった
やっと普通の子供としての感情を取り戻してきたのだと思った
そんな時に娘が流行り病にかかった
高熱が何日も続き、命まで危ぶまれた
さすがに父親は娘の容態を案じてつきっきりになる
母親はそれに激昂した
もう病気だった
父親ははじめて母親の頬を打った
諭すのではなく、叱りつけた
『自分の娘の命を軽んじるなどあってはならない』
と…
母親は叱られたことに、子供のようにショックを受け、正気を失った
数日して娘の容態は安定し、徐々に回復に向かった
そして母親も、父親から距離を置かれ、少しずつ冷静になっていく
娘は元気になったが数日の間、高熱が続いたせいか記憶が曖昧になっていたようだった
父親が側にいても不思議な顔もしない
笑顔を取り戻すきっかけになった皇太子のこともあまり覚えていないようだった
でも敢えて思い出させようとはしなかった
病から回復した後も娘は笑顔を忘れていなかったからだ
思い出してまた以前のようになるのが怖かった
ある日
まともに顔も合わせていなかった父親の元へ母親がやってきた
父親と娘が普通の家族のように笑いあっている
母親は久しぶりに娘の笑顔を見たことに気付いた
やっと自分のしてきた愚かな行いに気付いた
