父親からは距離を置かれ、母親からは疎まれ…
だからこんなにも大人びた表情を見せるようになってしまったのか
泣くのを必死で我慢する姿は紛れもなく幼い女の子なのに
その心は無理矢理、成長されている
無意識にギュッと抱き締めていた
「泣いていいよ
今ここにお母様はいない
僕は君が泣いても怒らないよ」
そこにいるのはただの女の子だった
声を上げて泣きじゃくる、普通の女の子
その姿を見るのが切なくて苦しい
まるで自分のようで
声を上げて泣けない自分の代わりのようで
さすがにもう戻らないとまずい
でも泣き疲れて眠ってしまったこの子を置いてはいけない
家がどこかも分からない
途方に暮れていると、草木を踏みしめる音がして、振り返った
そこには見たことのある紳士の姿
「お久しぶりでございます、ソウ皇太子殿下」
それはこの林の近くのあの邸の主人だった
「その娘は私が預かりますので、どうぞお戻りになって下さい」
僕を誰か知っていて、何故ここにいるか聞くこともない
この子のことも知っているようだった
怪しい人物でないことは分かっているので、そのまま任せ、戻った
その後もまたその子と会った
三度目は、僕を見つけるなり全速力でかけてきた
そして満面の笑み
その姿が無性に可愛かった
一度打ち解けてしまえば、素直で無邪気な子供だった
よく笑っていたかと思いきや、家に帰りたくないと泣き出す
はじめて会った時のあの大人びた表情は何だったのか、と思うほどだ
泣いているのを見るとどうしても抱き締めてあげたくなった
『僕が側にいてあげる』
そんな気持ちが込み上げる
できるはずもないのに
だから口には出来なかったけれど
抱き締めるとその子はギューッと抱き付いてきて、泣き笑いのような顔になる
いつも笑顔にさせてあげたい、そう思った
四度目に会った時、また僕を見つけるなり走ってきて、いきなりギュッと抱きつかれた
座っている僕の頭を抱え込んできた、自分は立ったままで
いきなりどうしたのかと思ったけれど、甘えてきているのかと優しく抱き締め返した
「今度はお兄ちゃんが泣く番だよ」
吃驚して言葉が出なかった
「ユナはお兄ちゃんがギュッてしてくれて嬉しかったの
だから今度はユナがお兄ちゃんをギュッてしてあげる
だから泣いていいよ」
寂しいその子を慰めてあげたい、そう思っていたのに、その言葉が胸に響いた
嫌なことを自分の胸に抑え込んで、誰の前でも凛とした姿を見せて、弱さなんて出さない
兄上に泣きついたのもたった一度
それなのに、つい自分と重ねて僕が弱音を吐いたのをちゃんと覚えていた
幼いこの子に言っても、困らせることなんてないと思っていたのに
ちゃんと僕のことを考えてくれたんだ
そのことが嬉しくて、その優しさに涙が溢れた
幸い、頭をすっぽり覆うように抱き締めてくれている
泣いても見られない
打算も何もなく、ただ純粋に僕を慰めようとしてくれるその小さな身体をしっかりと抱き締めて、声を上げずに泣いた
