千代はただ、木の上で祈ることしかできなかった。
木から降りることも、鬼羅と共に戦うこともできない。



鬼羅は、一人で大勢の家来たちを相手にし奮闘している。
刀を持った男たちに、鬼とはいえ素手で相手にしている。




「ああっ、鬼羅っ!」




何度も見ていられなくなり目を閉じ、それでも不安に目を開けば鬼羅は引くこともせず挑む姿が見られた。
先ほどまで濡れた着物は鬼羅の動きを多少鈍くさせているようだがそんなことも感じさせないほど身軽な身のこなし。



これだけの人数でいまだ鬼羅に一太刀も与えられていない状況に時光は唇を噛みしめた。




「なにをしておる!相手はたった一匹だぞ!」



一匹、そんな言いぐさに千代は唇をかんだ。




鬼羅は体を翻しながら刀を交わし、家来たちを殴り飛ばしていく。
後ろに構えていた他の家来にぶつかりながら一緒に吹き飛ばされていく様に、鬼の力を垣間見た。