「必ず、また会いに来る」

「待っています。鬼羅、ずっと」

「ああ」




立ち上がる鬼羅。
ギリギリまで伸ばした手がゆっくりと着物から離れた。
名残惜しそうにその指先を見つめ、その視線を鬼羅に向けた。




「鬼羅、ごめんなさい。父上が、どうか、非情な父を許して・・・」

「ああ。じゃあな」




鬼羅は、最後に小さく微笑み颯爽とその窓から飛び立った。
遠ざかっていく濃紺の着物。
その姿が見えなくなっても、しばらく千代は外をずっと眺めていた。




「鬼羅、私はあなたを・・・」




いつしか。
千代の心に芽生えていた気持ち。


初めて芽生えたその気持ち。



こんなにも、切ないものだなんて。
それでも温かい。



彼を思うと胸がこんなにも暖かい。




触れられなくても、いつまでも心に思う。