「それは、できない」




鬼羅の口からこぼれた言葉。
それは、千代の希望を消し去った。



「どうして・・・」

「俺と一緒に来るということは、すべてを捨てるという事だ」

「わかっています!」

「この、恵まれた生活も。この場所も。姫という位もすべて、捨てるという事だ」

「それでも!」




それでも側にいたいのだと。
ここはもう、嫌なのだと。


でも、きっと鬼羅はそれを受け入れてくれない。
千代は、それがわかってしまった。

俯き、思いを必死に抑える。




「必ず、また会いに来る。だから、無茶をするな」

「・・・必ず?」

「ああ。必ずだ」



その言葉に、再び顔をあげ鬼羅を見た。
視線が絡まり、鬼羅は頷いて見せた。



「千代。お前に出会えてよかった」

「鬼羅・・・」

「お前みたいな人間もいるのだと知れてよかった」




憎むだけではない未来をくれた。
それだけで、十分なのだと。