千代は手を固く握り鬼羅に向かい合った。



「母上に、聞きました。鬼と人間の事・・・そして、父上がしていることも・・・」

「・・・父上?」




鬼羅の眉間にしわができる。
千代は、深呼吸をし気持ちを落ち着かせた。

空は雲が漂い、今にも雨が降り出しそう。





「私は、鬼頭城の姫。私の父は、その城主です」

「・・・貴様、影正の娘か!」




一層険しくなる表情に、恐怖さえ覚える。
息がつまり、喉がからからに乾いてくる。

逃げ出したい衝動に駆られながら千代は、まっすぐ鬼羅を見つめた。





「私は、なにも知らずにただのうのうと生きてきました。あなた方の存在も知らず、父上がしてきたこともなにも知らず」

「帰れ。貴様の話など聞きたくない」

「それでも私は、鬼羅の事を知りたいんです!もっと、鬼羅や琉鬼さまの事、知りたいのです!」




ポツ、小さな雨のしずくが落ちる。
気づくか気づかないかの雨のしずくは次第に粒を大きくし、二人の頭上に降り注いでいく。