目を閉じればうかんでくる、あの真っ白な髪とそこから見える二本のツノ。
鋭くにらみつけるような瞳とガタイのいい身体。




「姫様、顔が綻んでおられですが、どうされたんですか?」

「え?やだ、杏。そんなことないわ」

「おありです。昨日城下からお戻りになってから、姫様は少しおかしいです」




杏はまじまじと千代の顔を覗き見る。
心配そうに眉を寄せる。

あの日、ケガをし泥だらけの着物で城に戻った千代に城内はちょっとした騒ぎになった。
それでも千代はニコニコと嬉しそうに笑っており、心配するほどの事でもないとホッと安心した杏であった。




「なにか、いいことでもあったんですか?」

「ふふっ、でもね、これは秘密なの」

「秘密、でございますか?」

「そう。秘密というのはね、誰にも言ってはいけないのよ」





両手で頬を包みながら少し顔を赤らめ放す千代。
杏は今まで見たことのない様子の千代に、少し心配になる。




「ですが、次城下に行かれる時にはくれぐれもお気を付けくださいね。またケガをして戻ってこられることがないよう・・・」

「ええ、大丈夫よ。足がもつれてしまっただけなの」





懐から、琉鬼に渡された布を取り出す。
綺麗に洗い大事に持っているのだ。