「わかりました。鬼羅。今日はありがとうございました。鬼羅に会えてよかったです」

「・・・言っただろう、俺は人間が嫌いだ」

「はい。嫌いでもよいのです。わたくしは、嬉しかったのですから」




まっすぐ向けられる心に慣れない。
純粋すぎるその心をまっすぐ見ることができない。





「俺に会った事は、誰にも言うな」

「どうしてです?」

「どうしてもだ。人間は俺たちをよく思っていないからな」





埋められない溝があるのだと。
越えられない壁があるのだと。


そんなことは、ずっと昔から知っている。
世間知らずのこの娘が何と言おうとそれは変わらないのだから。




「ここまででいいだろう。すぐ森を抜ける」

「はい。ありがとうございました。では、また」

「また、などない」





唇を噛みしめ、言いたげな千代を切り捨てるように視線を逸らした。
千代はなにも言わず森を抜けるため歩きだした。


その背中を見つめながら、複雑な思いが鬼羅の心に渦巻いていった。