仕事で身に付いたズルい考え方はどこまでも自分を惨めにさせているとも気付かずに、一人で見えない希望を見いだしていく。


「じゃあな」


「じゃあね」


そして


この会話を最後に慶太との彼氏・彼女の契約は幕を閉じた。


「歩」は「慶太」の何でもない。


しかし、ここからあたしの中でゲームは始まりだしたんだ。


たった今別れ、ダメージは相当なものなのにあたしの目は輝いている。


全てが終わったわけではない。


慶太とあたしを繋ぐ見えない相手に希望がある。


切れてしまいそうな一本の糸状態だが、その一本の糸でもいい。


ゼロではない可能性にあたしは勝負をかけるんだ。


止めるなんてできるものか。


揺らぐ思いなど打ち消して寒々としたネオンの下、慶太と復縁しようと決心した。


「さんみぃ~心がさみいぞ。どれ、早く戻んねえとママうっせえからな」


手に息を吐き、擦り合わせ店の扉を開くと、ざわつく店中から暖かく心地いい風が送り出され、全身を覆う。


「ママ!歩復活しました!仕事戻ります」


「おっ、来たか。何があったかは知らないけど仕事仕事。お前はうちのナンバーワンだからな!じゃんじゃん稼げ!」


「はい!」


慶太に発した言葉の先に何が待ち受けているかわからない。


たかが男。


されど男。


吉と出るか凶と出るか、見えない相手を落とせるかはあたしの腕次第。


運命の歯車を自らの手で動かし、先の見えない未来に歩き出す。


そう。


この瞬間からあたしは「歩」を取り戻したんだ。