【好きだから別れて】

そしてメールを終えたあたしは、鮮明に残された記憶が離れなかろうが決別として、悠希とのメールと残っていた発信、着信番号を消去した。


データなんて物が一つでも残されてしまったら、未練がましくまた繋がりを求めてしまう。


それがあって悠希の幸せの邪魔をするなんて、あたしがあたしを許さない。


邪魔するなら見えないように目を潰し、メールが打てないよういっそ指を切り落としてやる。


こうでもしなきゃ「歩」って人間はだらしないし、悠希の元を巣立てない。


死にかけていた「歩」を生かしてくれた悠希。


歩、自分で前に進むね。


自分で呼吸するよ。


ありがとう。


ありがとう。


ずっと


ずっと愛してるよ。


バイバイ…





決別の儀式後。


光が寝ているかを確認してあたしはゆっくり息を吐き、ギアをドライブに入れ車を走らせた。


戻りたくもない家。


真也が待つ空虚の世界へ戻るしか道は残されてないから…


黄色で塗り潰された重い鉄の扉。


その引き返せない重圧の扉を音を立てず開け部屋へ入り、あたしは振り向きもしない真也の背中を遠巻きに眺めていた。


部屋は物が散乱していて。


いない間に暴れたのか片付けるには相当時間がかかりそうだった。


そんな中で背中が怒りを物語り、頑なに背を向け続ける真也の姿が目に映る。


あたしが飛び出したのが悪い。


全部あたしが悪いって思えばいいんだ…


大人になんてなりたくないのに物事を穏便にうまくいかせる「ズルイ大人」を演じる。


そうすれば光はパパを失わずに済む。


親の都合で親を無くすのだけは回避出来る。


無心になれば傷はつかないし、痛くも痒くもないだろ?違うか?歩…