「ならいいんだぁ~」


光、光?


「あっ!光!」


電話に夢中になっていてすっかり忘れていたが、悠希の質問で光を親に預けっぱなしなのに気付いた。


いくら親が見てくれるとは言え、甘えて長時間預けっぱなしは甘え過ぎだ。


「じつは歩、睡眠不足で息子親に預けて寝てたのよ。ヤバイ。見にいかなきゃ…」


悠希に繋がる電話を切りたくない。


でも切らなければいけない。


ずっとずっと声を側に感じていたいのに。


ずっとずっと離れず、ずっとずっと一緒にいたいのに。


ずっとずっとあなたと…


「そっかわかった。頑張れよ」


「うん。頑張る。じゃね」


「おう!」


「……」


「……」


「早く切ってよ」


「歩が切れよ」


「いいから切って!」


「お前が切れって」


「やだぁ」


「これじゃ切れねぇじゃんかよ」


お互い切るに切れなくて、引き裂かれた禁断の愛情劇をしてるみたいで


「ロミオとジュリエット」の辛さが今なら感じとれる。


「悠希…あい…」


「ん?」


「うぅん。つらくなる…お願い。切って…」


「……」


「お願い」


「わぁあったよ。じゃあな」


「うん。じゃあね」


どうしてもあたしから電話が切れなくて。


悠希が切って終わりにして欲しくて。


あたしは切り終えた携帯を閉じ、前歯で唇をきつく噛んだ。


たった数分の会話。


なのに幸せと寂しさを噛みしめている。


太陽と月、光と影が意地悪をしてるんだね。


もう二度と話せないよね…


悠希との淡い一時を封印し、後ろ髪がひかれる思いであたしは階段を下り、光の元へ向かった。