【好きだから別れて】

光の元へダッシュで走り、守りの態勢に入ったあたしは眠る光を抱き上げその場にうずくまった。


隣の部屋から漏れる微かな明かりの中。


驚いた光は泣き声をあげ苦しげに反り返り、よだれと涙であたしの胸元を湿らせた。


数秒差で部屋に乗り込んできた真也の気配で顔がこわばり、目をきつくつむり、必死で光を胸元に抱き抱える。


「かせよ!」


「嫌!!」


「よこせ!」


「嫌!!光は悪くない!指一本触れないで!」


横に陣取った真也がこっちに手を伸ばし、泣きじゃくる光を奪い取ろうとあたしの腕を掴んだ。


「やめて!!光になんかするなら歩殴ればいいでしょ!!光は何も悪くない!」


「いいからよこせよ!」


「光は関係ない!」


この腕の外へ光を手放してしまったら冷蔵庫のへこみのように、光の原型を変えられてしまう。


すぐに折れてしまう柔らかな骨が粉々にされてしまう。


渡せない。


渡さない!


うずくまったままかたくなに光を渡さないあたしに痺れをきらした真也は光の足引っ張った。


「ギャア~アンギャ~!!」


一層泣き声を強める光は痛みを訴え、全身に力を入れ腕の中で暴れる。


「何してんだよ!おめぇおろせっていっただろ!父親じゃねんだから触んな!」


「はぁ?何言ってんだ!?んな前の話今頃出してバカじゃねぇの!?」


「うっせ!痛がってんだろ!離せよ!!」


力の入った指をへし折るつもりで真也の手を掴み、強引に光の足を自分の方に引き寄せる。


痛みの軽減した光の泣き声は、ほんの少しトーンダウンした。