願いが届くなら悠希の声がもう一度聞きたい。


あのちょっと鼻にかかった柔らかな声に包まれたい。


願望はあたしの背中をすんなり押してくれるのに、携帯を持ちかけた指が「ダメだよ」って制限してきてボタンを押せない。


付き合っていた時は毎日みたくあんな気楽にかけられたのに。


別れてしまうとはこういう事なんだ。


夫婦は薄っぺらな紙切れでも絶ちきれない繋がりがある。


でも口で交わされた約束は紙切れよりもろいものなのか?


好きなのは悠希なのに。


愛しているのは悠希なのに。


一緒にいるのを願うのは間違ってる。


真也と愛がなくても夫婦を続けている意味があるのかさっぱりわからなかった。


真也は真也なりにあたしに愛があるのかさえわからない。


いたわりあうのが夫婦なんだと思い描いていたあたしは、ただの子供なのか。


世間知らずの夢見がちなあまちゃんなのか?


結婚を決めたのは紛れもなく自分自身で。


ただお腹の子を守りたいが為に悠希を自ら遠ざけてしまった。


それならばやはりシングルマザーの道もあったのに。


ズルく弱いあたしはただ単に、真也の金に頼ろうとしていたんだ。


だからこんな失態をおかしてしまったんだ…


悠希にかけられないなら携帯を封印しよう。


目の前には置かない生活を送っていこう。


そしてあたしは極力携帯に手を伸ばさず、必要最低限の時しか使用しないようわざと電源を落としたりした。