【好きだから別れて】

その後…


あたしは知ったんだ。


あきらかに金銭感覚の違う真也には多額の借金があったと。


娯楽で作ったうん百万の借金と、未納でブラックリストになった携帯がある。


だらしない借金癖。


ガンのお父さんの為とはじめは言ってたが、それはほぼ嘘。


そして


思いやりに欠けた、優しくしてくれる相手じゃないと…


常時つまらなそうに会話をかわす真也は生粋の一人っ子。


親と確執のある複雑な家庭育ち、あたし同様幼き時、愛情を感じて育ってはいなかったらしい。


じつの父親はどいつかハッキリせず、風の噂では真也が産まれる直前刑務所に入ったとも…


世間から見れば出来の悪い娘が軽く男と寝てできちゃった結婚をした。


何一つ間違っていない。


そんなの、あたしが一番知ってる。


自分の人生なのに。


自分で選んだ道なのに…


幸せになる為に結婚したはずが、互いをいたわるなんてない。


同居人に近い感覚で金を貰い、家事をこなして食事を作る。


真也と愛を囁きあう事も全くない。


二人を繋ぐもの。


それはお腹にいる赤ちゃんと提出された紙切れだけだった。


愛は捨てた?


愛はどこにあるの?


――悠希、会いたいよ。ギュッて抱き締めて欲しいよ。歩、もう壊れそうだ…


毎日洗濯している時は、悠希に繋がる空を見上げていた。


手を伸ばし、掴めない真っ白な雲をきつく掴んだフリをして胸元で拳を震わせる。


届かない悠希への思いを処理しきれなくて、どうにもならないこの世界を壊したくなる。


こんな世界、意味がない。


心から離れていかない悠希。


歩は君が愛しくて、影に隠れ泣く癖が抜けなくなったよ。


そして今ある現実。


妊婦で仕事なんて無理だし、それ以前に金を稼ぐと言ってもこの身で仕事を探すなんて無謀だ。


身動きのとれない自分はどうしていいのかわからず、弱い立場のまま時の流れに身をまかせた生活をしていた。