【好きだから別れて】

目でわかる。


十代で怒り任せに殴りあいの喧嘩をしてきたコイツならしかねないって。


いきがってた同士だから不利になりゃ何でもやるって先なんて読めてる。


「……言い方が悪かった。ごめん。謝る。あたしが悪かったんだよね」


「はぁああ?謝って済む問題?」


「だからごめんって!」


――なんでてめぇに謝んなきゃなんねんだよ。腹にいなきゃおめぇなんざ即潰すっつの


内心カッときててもどうしてもお腹の子を守りたくて、その一心であたしは真也に詫びをいれていた。


過去の自分なら有無言わず殴りかかって車の外に引きずり出してた。


下手すりゃそのままアクセルを踏み込んで引いてただろう。


が、腑に落ちなくても守らなければいけない「者」があたしにはいるから。


平気。


何とでも言っていい。


その代わりあんたなんて何が何でも好きにならないし、父親だなんて認めない。


この日を境に真也に対し冷酷さが目覚め、自分の夫・お腹の父親という視点で真也を見なくなったんだ。


お腹の子はあたしの子。


真也の子じゃない。


自分の中で嫌な思いは真っ向から処理し、そう解釈して冷たくあしらう。


決めたんだ。


またあたしは無心、無表情になって何の感情もなく生きてくんだって。


悠希がくれた生きるチャンスといい方向に変わりだした空気を自ら逆流させてやる。


黒には黒を。


貫かなきゃいけない理由がここにはあるんだ。


生きて。


あたしの赤ちゃん…


真也になんか潰されやしない。


コイツは敵。


あたしに宿った命の火を消そうとしやがったんだから…