【好きだから別れて】

何か言いたげに目を見開き、強く睨んでる。


「あの~」


「あなた見た感じ若いけど10代で産むの?ご両親はなんて?」


「へっ?」


「彼氏は?」


「あの…あたし20代ですが」


「えっ!?高校生くらいかと勘違いしてたよ!高校生ならおろすとか考えなきゃいけなくなるしなぁって」


「ちょっ、待ってください!あたし産むし!」


確かに童顔なチビ女が似つかわしくない場所に現れればそうはなる。


なるが、そうきたかの展開につい口が滑って「産むし」なんて恥ずかし気もなくデカイ声を張り上げてしまった。


医者はおろす手伝いをしたくなかったのか、あんたが父親かってくらい良い笑顔で頷いてる。


「そうか。じゃ産む方向で話を進めてくよ?」


「はい。お願いします」


「しっかしあなた若いねぇ!」


「若く見えるだけです。ってか先生。赤ちゃんは」


「あ、そうだ。え~とまずはと~…最終月経はいつだったかな?」


数字が印字された銀色筒状の物に手を伸ばした医者は、最終月経を伝えるなりクルクル数字を合わせ手を止めた。


「山本さんの赤ちゃんわぁ~とぉ~」


それからすんなり話は進んで行き、現在妊娠何週間目なのか。


最終月経を基準に出産予定日と次回の診察日はいつなのかを医者は事細かに教えてくれた。


「…とまぁ流れはこんな感じなんでこの資料に目通しといてね。元気な赤ちゃんを産みましょうね」


「はい!」


医者が準備していた妊娠と出産について書かれた数ページの資料を手に、その日の診察は終了した。


ママになってしまった自分の体は命の値段をはかりきれなくて、薄っぺらいエコー写真すらいとおしく感じ出している。


産みたい。


この子を産みたい…


病院の階段を降りる時、自然とお腹をかばいお腹をさすって「あたしの赤ちゃん…」ボソッと呟く自分がいた。