【好きだから別れて】

真也が帰った後、あたしは部屋を暗くし一人考え込んでいた。


テーブルにふて寝して口元をだらんと緩め、冷たいテーブルに頬をくっ付ける。


染み渡るひんやり感が冬の寒さにわをかける。


手足の冷えは妊娠の敵なんて姉ちゃんが言ってたのを一瞬思い出した。


――あたし子供嫌い。子供なんか可愛くない。うぅん。違う…あたしみたいな子増やしちゃいけないんだ。腐った人間なんて増やせねんだって。いらねぇ奴の子はいらねぇ奴にしかなんねぇって…


昔からずっと思って生きていた。


本当は喜ばしい事なのに悠希の影がチラつくあたしは迷いの中。


けど、赤ちゃんがここにいる。


まだ形にもなっていないのにお腹を懸命に撫でている自分。


押しちゃいけない。


やんわり温めてあげなきゃ潰れちゃう。


ここに命が宿ってる。


あたしを選んでママにしてくれる子がここに…


次の日仕事が終わると同時に病院へ向かった。


「このカップに尿を入れてもってきてね」


看護婦に言われるがまま尿を採取し、いち早く結果が知りたくて入れといてと言われた箱なんて無視してあえて手渡した。


待たされる間ソワソワして、とてもじゃないが落ち着いていられない。
貧乏揺すりは絶好調でいままでにない速度で軽快に足を揺らす。


「山本歩さん。こちらへどうぞ」


「へ。は、はぁいいぃ」


変な返事と共に誘導されるがまま診察室に入り、イスへ座ると


「間違いないね。妊娠してるよ。ちょっと見たいからモニターで確認するね」


医者は結果を言うなり微笑みかけ、隣の部屋の診察台で足を開かされた。


何かが下半身に差し込まれ、激しい痛みがない状態で画面に映し出された白黒の荒い映像に見いる。


「ここがね…」


説明し出す医者の声なんて耳に入らなくて。


形にもなってない赤ちゃんを見た瞬間「可愛い。産みたい」って心から赤ちゃんを愛しく思っていたんだ。


ほんの小さな豆粒サイズ。


命の鼓動さえ確認しきれない白黒の画面。


「ほらここにあなたの赤ちゃんはちゃんと生きてるんだよ。はい、終わり。下着履いたらさっきの椅子に座って下さいね~お話あるんで」


台を降り、カゴに入れた下着を拾い上げそそくさ足を通し、あたしは言われた通り元の椅子へ腰掛けた。


医者はいつの間にか撮っていた薄っぺらいエコー写真を手渡すなりじっとこっちを睨みつけてくる。