「ねぇ覚えてる?歩が小学生の頃、姉ちゃん食器とか集めてたの」


二人でしんみりとしていると姉はあたしから目をそらし、からになったグラスに焼酎を作る。


マドラーでかき混ぜ、氷とグラスがぶつかる音だけが部屋に響く。


「うん。隠してたよね。知ってた」


姉は父と言い合いになると激しい暴力をふるわれていた。


子供ながら姉だけが集中的に暴力をふるわれいたのも気付いてた。


顔を青アザだらけにされ腫れ上がるまで殴られ続けたり、髪をハサミで切られ二階の窓から外に身を押された姉。


いつ殺されてもおかしくない暴力は、ほぼ毎日続いた。


「あの家にはいれなかったよ。お父さんはあたしが殺るか家族の誰かが殺るしかないって思った。でもね、16歳で東京に逃げ出して正解。あいつの為に捕まんの馬鹿らしいじゃん」


家族を壊した父を皆心底恨んでいたんだ。


母も兄も姉もあたしも…


「今あいつ殺りたいよ」


「ははっ!年寄りだからいじめんな。ってかさ~あいつとお前似てるよ」


「どこが似てんだよ!似てねぇよ!」


「ほら、すぐキレる所同じじゃん」


姉は作った焼酎を口に運び微笑んだ。


父の血が入ってるなんて絶対認めたくない。

似てると言うならば大嫌いな父の血なんて一滴残らず絞り出してしまいたい。


「意味わかんねえ。似てるとか…」


あたしは不機嫌になり、吸ったばかりの長いタバコをぐいぐい灰皿に押し付けた。