【好きだから別れて】

膝を抱え数分後。


脈と呼吸は幾分か落ち着きだした。


またなりそうな気がして落ちつかず、あたしは挙動不審に周りを見渡し、小刻みに震える手で冷たい床に這いつくばり前に前に進んだ。


布団まで距離的には遠くないはず。


なのにやたら遠く感じる。


骨っぽい腕や足のせいか床にすれたび半端なく痛い…


やっとの思いで布団へ辿り着くとそのまま身を投げ、掛け布団を頭までかぶり、きつく唇を噛み耐えしのいだ。


大丈夫。あたしは弱くない。強いんだから


心の中で何度も何度も唱え、目を閉じる。


自分をごまかす為、余計な事は考えない。


そうしなきゃ仕事に行けなくなってしまう。


今起きたふらつきはなかった物だと自分の中で無理矢理処理し、あたしは必死に布団へくるまった。


この動悸が起きるのは必ず一人でいる時のみで、人がいると気を張るのかなぜかならない。


それを知っていたあたしは一人で部屋にいるのが嫌で、おかしくなる自分を怖く感じ、極力一人になるのを避けていた。


急いで友達の春斗にメールを送り、とにかく人間を繋ぐ。


送信:『歩だよ。今何してる?』


常に携帯が離せない生活で、人へすぐつながる携帯はあたしにとって食事より大切な物。


これがなきゃ命が絶たれたも同然。


“♪…♪”


手から冷や汗が出て小刻みに震える手で携帯を掴み見る。


着信:春斗『飯食うとこだよ。部屋来る?』


上の階に住み、代行専門で生計を立てる春斗は夜の仕事繋がりで、あたしにとっては常に互いの部屋へ行き来してもらう大切な仲間だ。


送信:『歩の部屋集合。鍵開いてるから入ってこい』


春斗の誘いを蹴り、自分の部屋へ招くメールを送る。


とてもじゃないが今は動きたくない。


というか、動けない…


着信:春斗『ラジャー!』



メールが届いてから二分もせずに部屋のドアは開いた。


「おじゃ~ま!ってかお前強引だな。こっちは腹減ってんだっつうの」


春斗は散らかった部屋に足を踏み入れるなり愚痴をこぼす。


「だりんだよ…ハゲ」


布団から出もせず春斗に暴言を吐き顔を見ると、安心感なのかホッとした。