幻桜記妖姫奥乃伝ー月影の記憶

宗治郎が声のした方を振り返ると、そこには、一人の美童が佇んでいた。


眼光が鋭いために何処か殺気立って見えたが、美童の無垢を証明するかのごとく、身にまとう空気は清らかだった。


宗治郎ははからずもその子に見とれていた。


それは、悪しきものの目には善きものが眩しく見えるという説の証左であったろう、とのちの宗治郎は語った。


美童……腰刀に手をかけた少年もまた、宗治郎に魅入られていた。


少年の目に映った宗治郎は、幼子とはにわかに信じがたい妖艶な色香を放っていた。


唇の色は紅く、可愛らしい垂れ目の奥の仄暗さが、妙に忌まわしかった。


少年の目には、目の前の子供は、愛らしい幼子の皮を被った魔物と映ったのである。


少年たちはしばし見つめあった。


木々もまた沈黙のうちにわらべたちを見守っていた。


その瞬間はつかの間であり、同時に永遠だった。


運命の二人は、ともに成長し、当然、子供時代を揃ってあとにすることとなる。


しかし、確かに、この瞬間に置いてきたものがあるのだと、そしてそれは永遠にあの幼き日に留まり続けているのだと、宗治郎は知っていたし、少年……のちの雅仁も分かっていた。


一方は愛らしく、純粋にして邪悪なものとして、他方は美しく、無垢にして清廉なるものとして、同じ永遠を共有することになるのである。


もちろん、この時の二人が預かり知ることではない。


全ては年月が流れたあとの、二人の切なる思いが生み出した虚構であったかもしれない。