ところがその翌日、善一はこれまでにもほとんどなかったような高熱を出し、三日三晩苦しんだあげく危うく死にかけた。

 ハナは宗治郎が家の中に持ち込んだあやかしがその原因だと気が付くなり、それを家の外に放り投げてしまい、物凄い剣幕で宗治郎を叱った。

「病弱な善一にあやかしを近づけるなんてお前は何を考えているんだい?」

「だっておっかさん、にいやが喜ぶと思って」

「宗治郎、お前のにいやはお前とは違う。あやかしを従わせるほどの力もなければ、見ることすらできない。明日のお天道様を拝めるかどうかすら危ういんだ。小物だって善一には毒気が強すぎる。それくらい分かりそうなもんだ」


 ハナ、宗治郎とて悪気があったわけではないのだから、と珍しく父がいさめてくれたが、本気で怒った母は宗治郎をとって喰おうとねらうあやかしよりはるかに恐ろしかった。

 生まれつき色が欠けていたらしい紅い瞳がぬらぬらと血のように光り、宗治郎を見下ろしている。

 宗治郎の母は優しく、美しく、そして恐ろしい人だった。 

 幼い少年はこの一件でそれを嫌というほど思い知ったのである。