「ふふっ、じゃあどうしようかな。」

外面を張り付けて、二衣がにこにこと考えるふりをする。口許に指をおいて目を瞑りそしてすぐに開く。

「では赤の8の人が好きな人を発表で。」

その目は真っ直ぐと光成を見つめて。

「うわ、橘さん意外と攻めるw」「いっちゃうのですかー」「赤の8って誰?」

「…俺だよ」

光成が手を上げる。女子から悲鳴とも歓声ともつかない声があがった。カードを表にしてテーブルに置きながら二衣の表情を窺う。

「…これ今言うの?後で耳打ちとかじゃだめかな」

おどけた様子で言うと男子は悪のりする。
「王様の命令は絶対だぞ」「そうだそうだ」普段は余裕ぶっている光成が嫌がっていることもあってノリノリでつついた。光成は頭をかく。どうしようか、と。嘘で誤魔化すものなのか、二衣が指名したのがわざとならば、今言うべきなのか。

(でも二衣さんは昨日、バレるのを拒んだばかりじゃないか)

「いいよミツ。隠さなくていい気分なんだ」

ミツ、と。二衣は今、人前で光成のことをそうよんで、隠そうとはしない。その言葉を推し量る。部屋中が二人に傾注するなかで光成と二衣だけの世界みたいに。



「二衣さんのことを好きだよ」


「うん、知ってるっ。」


目を細めて、口角はふんわりと持ち上がり、頬は赤く上気する。その表情が全部を語る。全部を表している。

「え、」「まじで?」「何これ、告白?」「えっ、橘さんと朱本?」「婚約者のはなし?」「やばくね」「朱本くん?」「まじか………」「急展開?」「朔との噂は?」「ん、ロミジュリ?」「公開告白」「どゆこと」

「さて、と。次の王様を決めようか。私とミツの話を聞きたいなら、どうか王様になって見せてね」

新しい悪戯を思い付いた子供のように、橘二衣は笑う。それは塗装されていた理想が剥がれてくイミテーション。
その目は朔良を捉えて、それから光成を見て、塔の上のお姫様なんかじゃない蠱惑的な微笑み。


橘二衣はもう偽らないから。