狭い胎内で世界に怯えるように、二人だけだった私たち。自己はなく、記憶もなく、何故生まれた順番だけでこんなに変わってしまうのだろうか。想起する。赤い膜の内側に丸まっていた私たちを。

あの姉が手に入れることのできないものを一つくらい持っていていい。

あの姉より誰かに愛されていい。

この学校という小さな箱庭でくらい、模倣品がオリジナルに勝ってもいい。

姉さんがいないなら、私はたった一つ、たった一人の輝きになれていい。

「『僕のために全てを捨てて、来てくださいますか』」

「え『えぇ、勿論。私には世界で貴方だけ。貴方なくしては生きていくこともできません』」

そう、それでいい。

求められなきゃ意味がない。

一番にならなきゃ意味がない。


「橘さん、はい、これ着て」

「何でパーカーなんか」

「今橘さんと歩くと目立つから、あ、だて眼鏡もあったよ」

朔良はロッカーを漁りながら、二衣に手渡す。二衣は髪を三つ編みに結ってフードをかぶりメガネをかけた。

「まあ、パッと見わかんないから大丈夫。行くんでしょ?どこか分かんないけど。」

「ミツと、それから西野くんのところに。噂もミツとの婚約関係も、全部まるっと誤魔化してみせよう。」

大胆不敵に、泰然自若と、天衣無縫かつ威風堂々として。二衣はらしさを振り撒く。自信と自負が彼女を支える。欲しいものが彼女を動かす。

「私は橘二衣だから」