「姉さん。お願いだから、帰って下さい…」

「久しぶりなのにずいぶんなご挨拶だね。そういうわけにはいかなくなったよ。さっきの反応を見るに、婚約のことを他の人に言ってないんでしょう。」

「ここは日本の公立高校なんだよ。許嫁なんてこの学校の人間にとってはお話のなかだもの。言えるはずがない」

「じゃあみんな貴方の血筋をしらないの?二衣が普通の人だとでも?」

「血筋なんてなんの価値もないよ。他人に与えられてた地位がなんだっていうの。」

姉妹喧嘩というにはあまりに冷めた、静かで辛辣な言葉が飛び交う。一衣の言葉は鈍い痛みとなって二衣の体に食い込む。毒がたまっていく。言葉が正しいかどうかもきちんと見極められないまま、姉にのまれないよう反発する。

けれど。

目頭が熱くなって、じわりとなみだがにじんだ。咽がつまり、言葉を繋げない。

「ねえ、二衣。私も貴女も男に生まれなかったんだから、分かるでしょう?」

「   っ」

「〜橘さんっ、」

パーテーションを無理やり開けて、内側にふみいってきたのは。

「……相澤」

若松が呟く。気にしていたのは装飾がとれていないかどうかだったが。

「と、取り込み中すまない。劇の時間なんだ。橘さんもいかないと、ほら、裏方あるでしょ」

たどたどしく、二衣の手を掴んで外へ連れ出した。

「行っちゃったな。一衣さん?諦めて帰られた方がいいのでは?」

「若松さんは私のこと嫌いみたい」

「特ダネをトンビに、拐われてしまったからね」

「……戸惑わないで私を引っ張ったのは、そのせいか。で、ソースは光くん?」

一衣がふいと視線を向けると、光成は下唇を噛んで喋る気はないと拒絶する。

「じゃあしょうがない、お暇しようかな」

一衣は朔良のこじ開けたスペースから、表へ出ていく。若松はそれを見送ってから占い用のイスにすわる。スマホを出しながら光成に泰然と椅子を薦めた。

「さて朱本くん、商談をしよう」