「さてみんな、ついに文化祭となったわけだけど、準備はいいかな。しっぽと耳は大丈夫?帯は緩んでないか?」

実行委員が最後の挨拶をする。

「さあみんな、目指すは売り上げ一位!媚びて売って化かしとれ!!」

「…その挨拶はありなのかな」

回りに聞こえないよう苦笑する光成も、仮装している。一日目はドラキュラ伯爵だ。客引きのために宣伝にいかなきゃならない。


「楽しむだけじゃ勿体ないからね、最優秀目指していくよ!さあぶちかまそう!!」

西野が言うと教室中が沸いた。二衣も控えめに腕を上げる。二日間の間の6公演。二衣の出演するのは一日目の最後だ。

誰がどの回で出演するかを隠して、それぞれの配役にあわせた調子でストーリーは変わる。ただのロミオとジュリエットじゃないのは、作業時間中に色んな人が衣装を着て歩くことで宣伝済みだ。

文化祭の始まりを告げるアナウンスとともに入場門からぞくぞくと人が入ってくる。
そのひとたちにジュリエットの衣装を着て二衣はチラシを配っていた。

30分もたって来場者が落ち着けば、そこから二衣は自由時間でクラスメイトたちとともに校内を回る予定だ。

予定だった。

入場門の前に車が止まる。運転席から人が降りて後ろのドアを開けた。

二衣の手が止まった。チラシを配っていた手が動かなくなりその一点を見つめる。

道の反対でチラシを配っていた朔良が、それに気付く。

車から降りた人が入場門を通ってやってくる。二衣を視界にいれてにっこりと微笑んだ。二衣と瓜二つの顔で。

「橘さん、どうかした?」

朔良の声が耳に入らなくて表面で滑る。

「………なんで」

「二衣」

駆け寄って二衣を抱き締めたのは、双子の姉。一衣。

「久しぶりに見たわ、元気だった?」