そうして姉さんは完成品になるために家を出て、もうまる二年会っていない。

光成がいるというのに二衣はその日相澤家に来ていた。樋之上のアイドル騒動が落ち着きを見せ始めた頃合いだった。
二衣の前に座るのは朔良の妹、桃花。
可愛らしいショートボブ。ピンで止められた前髪の下からじっとりと睨み付けられる。しかもこの場に朔良はいない。桃花の部屋に桃花と二人きりだった。
いつも通り家に帰ろうとしたところで、校門に寄りかかって立つ、桃花を見て思わず声をかけたのだ。

「橘二衣さん。待ってました」

取り巻きにいた他の人たちと別れて桃花と相澤家に来たのだ。
呼び出しておいて警戒心剥き出しな桃花は、二衣を部屋に招きいれてから5分ずっとこうだ。なつかない猫のような様子に朔良とそっくりだなと思う。

「えーと、今日はどんなご用事だったのかな?」

「……二衣さんは、お兄ちゃんと付き合ってるんですか」

「付き合ってないよ」

「本当に?二衣さんはお兄ちゃんが始めてうちにつれてきた女の子なんですよ。お兄ちゃんは鈍感だから、弄ばれてないか私が気にしてあげないとダメなんですよ。」

「お兄ちゃんのこと好きなんだね」

「家族だからです。普通です」

「   、そっかあ」

「本当に付き合ってないんですか」

「付き合ってないよー」

じーーーーーーーっ
にこにこにこにこにこ

「…わかりました。お二人は付き合っていないと。で、お兄ちゃんのこと好きなんですか。」

「うーん、どうだろう」

「…」

「なんて答えてほしいかな」

「二衣さん」

「桃花ちゃんはクラスに好きな人いる?」

「…関係ありますか、それ」

「超あるよー」

「いないです」

「親友は?」

「います」

「好き?」

「…屁理屈でごまかそうとしてますか?」

「えへへ」

「二衣さんはダメな大人ってやつですね」

「あー、ばれちゃいましたか」

「…」

「君のお兄ちゃんのことは嫌いじゃないし、好きじゃないよ。いまのところは普通」

「本当ですね」

「うん」

「桃花ちゃんがお兄ちゃんを好きってくらい本当」

「なるほど、嘘でしたか」

「えー?」

のらりくらりと本当に嘘を織り混ぜて。
でも自分だけは事実を見失わないようにいなくちゃいけない。

あのね、桃花ちゃん。
私がお兄さんを好きなんじゃなくて、お兄さんが私を好きになるんだよ。

「なんてね」