つまらない人間というのは際限なく溢れてくるもので、二衣のまわりに常にいる取り巻きたちは二衣にとってそのつまらないの一部でしかない。二衣はいつだって笑顔でそれの相手をする。いつも同じふんわりと優しい物腰で。

(本当につまらない人間だな。)

自分を笑う。そうしてまだみんなの理想の素敵な橘さんを演じ続けるのだ。
 多重人格。そんなレベルで二衣は裏表が激しい性格だ。

「ねぇ、橘さん。放課後大丈夫かな?皆でテスト勉強するんだけど。」

「ん、私も行くよー。」

「やった。橘さんがいてくれれば、百人力だよ。みんなー橘さんもくるってー」

教室がその言葉に沸いた。
その様子を廊下を通りすぎた光成はたまたまみていた。こちらも同じように数人の取り巻きをつれて。

「なんか二組騒がしいね」

 光成にとなりにいた元木が答えた。

「あー、なんか放課後の勉強会に橘さん誘うとか、今朝二組の奴が言ってたからそれじゃね?橘さん行くなら俺も参加してー」

「お前絶対勉強しねーだろ」

「ふーん、すごい人気だね」

光成は昨日の二衣を思い出して思わずクスリと笑う。その時ポケットの中のスマホが震えた。見ると何件かたまった通知の中に二衣の名がある。

<二衣 今日はさきに帰って>
<光成 俺もさりげなく
    混ざっちゃダメかな>
<二衣 知らん、好きにしてくれ>
<光成 暇だったらいくよ>

ついでに他の数人にも返事をしておく。その度に即レスで返事がきて、やや辟易とした気分になった。しかし表情にはださないで既読をつけずにまたポケットにしまった。

「あ、ダメだ。暇じゃないや」

「え?」

思わず声に出ていたかと苦笑した。