君が俺のものになればいいと思う。
それが本当の意味でどれだけ難しいかは解っていて、それでも求めてしまう。初めて会ったときからずっと、歪み続けた俺たちの関係でたった一つ変わらないこの気持ち。
『私にして。私を選んでよ。』

 ずっとその言葉だけが俺の支えだ。

 二衣と初めて会ったのはまだ、7歳になる前のことだ。
 その時には二衣の姉、一衣(ひとえ)さんも一緒で初めて会ったときは確かおままごとをしていた。
 朱本家は成金だから、高貴な血筋を欲しがっていた。そこで白羽の矢が立ったのが朱本の一人息子の俺と、橘の双子、二衣と一衣だった。
 どちらを選んでもかまわない。
 既にその頃から様々な分野で才能の片鱗を見せていた姉と、それを追いかける妹。差は歴然だった。
 それでも俺は二衣を選んだ。
 橘という小さな箱庭の中で大切に育てられた二人は外部の人間である俺に怯え、心を開かなかった。早い話が人見知りだ。
 そんな状態なのに未来の旦那が決まるんだ。自分たちの意思とは関係なく。
 二衣はそれを良しとしなかった。
 長年積み重なった劣等感と、姉への憧れがその言葉を、怯えながらも引きずり出した。

「私にして、私を選んでよ」
「私なら君が望んだ人間になれるよ」
「君に都合のいい女の子になってあげる」

「なんで、初対面の俺のお嫁さんになりたがるの?」

「ミツくんのお嫁さんになりたいんじゃないよ。私を選んでほしいだけ。」
「姉さんは私よりもっとずっと自由であるべきだから。」
「姉さんの才能を、すごいところをこの家の犠牲になんてさせない」

 諦めが見えるのに、強い芯のある声でそういった二衣に俺は、心奪われたのだ。

 そしてあの頃よりずっと前から二衣の一番は一衣だ。