月だけが見ていた

「絶対、映画が良い!」

『えー?』


前日の夜、電話の向こうで
司くんは、珍しく不服そうな声を出した。


『プロのチームの合宿が見られるんだぜ?』

「けど、私サッカーわかんないし」

『俺が教えてやるって!』

「んー…」


次の日に予定していた、デートの行き先の相談だった。
司くんの部活が忙しくて、夏休み中は二人で会えなかったから

休みが合った日曜日に電車に乗って、ちょっとだけ遠出をすることになっていた。


「でも、この映画明日までなんだけどなぁ」

『見たがってたもんな、上原』

「うん……」


一瞬、沈黙が流れた。

サッカーの合宿が、めったに見られないものだということはわかるけれど
私だって、絶対に見逃したくない映画があったのだ。


『じゃあ……映画にする?』

「、ほんと!?」


思わず大声を出してしまった。


『うん。一緒に映画行こう。』

「ありがとう!…いいの?」


うん、と司くんは笑う。


『上原がそんな必死なの珍しいもんな。』

「…へへ。」


お風呂上がりでまだ少し湿っている髪の毛の先を、指で弄びながら
私は照れて笑った。