月だけが見ていた


その瞬間

胸をナイフで貫かれたような

鋭い、痛みが走った。



「死」という壁が
私と司くんを、決定的に隔てている。


そして、それを自覚する度
私は、いつだって底無しの悲しみの谷へ吸い込まれてしまうんだ。



「……上原」



廊下の真ん中で足を止めた司くんは
ふいに、私を抱き寄せた。



「ーーーごめん」


そっと 司くんの背中に腕をまわす。



「置いていって、ごめんな……」