月だけが見ていた



「……上原とはさ、」


司くんは、言葉を選ぶようにしながら
ゆっくりと話し始めた。


「高2の時、初めて一緒のクラスになったでしょ?」

「うん」

「その時の最初の自己紹介でさ、」


最初の自己紹介…
私は、必死で記憶を手繰り寄せる。


「すげえ格好良かったんだよな。上原葉子です、ってしゃんと背筋伸ばして。声も落ち着いてたし、しっかりしてるんだろうなーって思ってたらさ」


笑いを堪えた表情で 司くんは私を見た。

「手震えてんの。」

「え!?」

「後ろで組んだ両手が、ちっちゃく。俺の席から見えたんだよね。で、あー緊張してるんだなってわかって」


かあっと顔が熱くなるのがわかって、慌てて視線を落とす。
繋いだ手が汗ばんだ気がした。


「すげー可愛いなって思った。」