「あ…」

卒業以来、一度も足を踏み入れたことはなく
近くを通りかかることさえ避け続けた。


司くんとの思い出が詰まった灰色の校舎は
昔と同じ姿で、そこに存在していた。


「懐かしいなぁ…」


あの日のまま、変わらない校舎と
もう年をとることはない司くん。

私だけが 27歳になっていた。


「…何か恥ずかしい」

「え?」

「私だけ年とっちゃった」


きょとんとした顔で私を見つめた司くんは
やがて、声を上げて笑った。


「なーに言ってんだよ、」

「な、なに」

「上原だってそのまんまじゃん」


……え?


「ん。」


司くんは自分のポケットをまさぐって、折りたたみ式の鏡を取り出した。
そのままパカっと開いて、私に向ける。

おそるおそるそれを覗き込んだ。