目を閉じて、思い出すのはいつも同じ光景。



離れてくアタシを、無表情で送る子供の顔。



あの子は今でも、アタシが迎えに来るのを待ってるのかな……。



「……バカみたい。」



あー、考えるだけで無駄無駄っ。


いくら考えても、あの人もあの子もあの日も……



「戻っては、来ないんだから……。」



机の上に散らばる資料を集めて、帰る支度をする。



今日も疲れた、主に指先が。


何度も同じ曲を演奏しなきゃならないから、正直途中で飽きるし。



音楽の先生も、楽じゃないなー。



「東先生。」



……なんて。


思ってた矢先に、引き止められる。



「少しお話……いいですか?」


「藍ちゃん……。」



海人……かいと。


あの子と同じ、名前の字を持つ彼。



「ちょうどよかった、アタシも話があるんだー。」



彼が愛す、女。