僕と君が出会ったのは、今から3年くらい前だった
高校一年生の夏休み明けの9月、君が僕のいる高校に転校してきた時だ
その日、クラスの朝学活で君を初めて見た

「今日からこのクラスにくることになった、阪田海乃里さんだ。阪田さん、自己紹介をお願いします」

「はい。えっと……阪田海乃里です。大阪からきました。皆さんと早く馴染めるように頑張ります。よろしくお願いします」

「はい、ありがとう。みんな、仲良くしてやってくれ。
じゃあ阪田さんの席は……荒谷の隣か。荒谷、手をあげろ」

「はーい」

「じゃあ今手をあげてる人の隣に座ってくれ」

「わかりました」

まるで人形かと見まがうような整端な顔。さらさらとした髪。すらりとした体。可愛いというより綺麗といった方が似合いそうな人だ

「君が荒谷くんだっけ。これからよろしゅう」

そういって手を差し出す君

「ああ。こちらこそよろしく、阪田さん」

その手を握り返しながら笑えば、君も微笑みを返してくれた

この時から僕と君の静かで儚い夢は始まった


その後の授業では、驚かせられることが多くあった

新学期とはいえ、前の学校との進み具合の差は少なからずあるはずだ
にも関わらず、スイスイと問題を解いていく。どんどんと書き連ねられていく字を見ていると、勉強ができる子なのだと言うことがわかる
先生からの質問も淀みなく答えているところをみると、前の学校でも成績が良く発言をよくしていたことが伺えた

授業と授業の間の休憩時間では、クラスメイト、主に女子からの質問が相次いだ

「海乃里さんって何か趣味とかある?」

「ねぇねぇ、好きなアイドルグループとかいたりするの?」

「どこの部活入ろうとか、決めてる?」

機関銃のように次から次へとくる質問に、彼女はそれぞれ淀みなく答えた

「趣味は読書とか絵を描くことかな。アイドルグループとかはあんまり詳しくなくて…好きなところもないんだ。部活は……そうだな~、美術部に入ろうかなって考えてる」

まるで聖徳太子かと思うくらい、よく聞き取れてるのだ
それには他の人ももちろん驚くが、さらに質問が増えていった

僕は隣でそんなに騒がれちゃ大変だから、他の友達のところに行っていた
もちろん話の内容は、専ら阪田さんのことだった

「あの子結構美人だよな。今度アタックしてみようかな」

こういうのは野来健斗。この通り、女好きなところがある。いわゆるチャラ男というものだ

「やめておけ。また玉砕して痛い目みるぞ」

こっちは清水悠哉。真面目なやつで、鼻にのせてる黒縁メガネが更に堅物な印象を強くしている
この二人と一緒に過ごすのがいつもの光景だ

「悠哉の言う通りだろ。お前高校入って何回コクったんだよ。しかも全部振られてるしさ」

「まだ10回だし!それに全部振られてるってわけじゃないし!!」

「まだじゃなくて、もうだろうが。半年で10回コクるってどんだけだよ」

「しかも唯一成功したものも、たかだか一週間で別れたものだろう。そんなもの成功したと言えるものか?」

「二人揃ってよってたかってひどいこと言うな」

僕と悠哉からかなりズタズタに言われ、かなり傷ついた様子の健斗
だがそんなのいつものことだから気にしない

「ところで翔太。転入生のことだが、どうだ?」

「どうと言われても……普通にいい子だよ。頭もいいみたいだし、悠哉と張り合うんじゃないか?」

悠哉は毎学期行われる定期テストで、首位を独占し続けるほど頭がいい
僕がそういうとそっぽをむき

「ふん。俺に勝つことがあったら面白いな」

と、かなり皮肉めいたことを口にする
でも面白そうな笑みを顔に浮かべているところをみると、悠哉自身も薄々感じてるらしい

そうこうしているうちに、休憩時間が終わった
教師が教室に来たので急いで自分の席に座る。隣をみると、阪田さんは少し疲れたような安心したような顔をしていた

「ん、どうしたの?少し疲れてるみたいだけど」
「いや、大したことないんやけど。あんまり大勢に話しかけられるの慣れてなくて」

そういうと一瞬困ったような顔をしたが、すぐに笑みを浮かべ

「でもみんな好い人ばかりやから、全然大丈夫やで!
これからどんどん友達増えてったらええなぁ」

とりあえず大変だったねと労い、正面を向いた
既に板書は始まっていたので、ノートを開き急いで写し始めた