そこにいたのは――。

「絵……茉……?」
身体中を真っ赤に染めた、片思いの相手がそこにいた。
顔は下を向いていて確認できないが、いつも私の隣にいた彼女だ。
しかし。

「絵茉……?」
『なあに? 高坂……花梨』
彼女はゆっくり顔をあげ、私に近づいてきた。
「違う。あなたは……絵茉じゃない……」
血まみれのセーラー服。どこを見ているかわからない空っぽの目。
そして――右手に持ったキラリと光るナイフ。
絵茉は話しているのに、口は全く開いていない。どうやら副音声のようだった。
『ふふ。私は“えま”よ。貴女が知っている“絵茉”の片割れ、とでも言っておきましょうか』
「血まみれエマちゃん……っ」
私の前に現れたのは絵茉を殺した張本人。
姿見こそ似ているものの、絵茉ではなかった。
『そうよ……私は血まみれエマちゃん。全く。絵茉は何を考えていたのかしら。自分で私を呼ぶなんて』
エマちゃんは氷のように冷たい言葉を吐きながら、倒れている絵茉を睨む。
『今まで一緒に人を殺してきたのに……』
「今……なんて……?」
エマちゃんはさらりと衝撃事実を暴露した。
『絵茉と私は、今まで一緒に人を殺してきた、って言ったの。理由は企業秘密ってことで?』
絵茉がエマちゃんと一緒に人を殺してきた……?

絵茉は、あの優しい絵茉は……エマちゃんと仲間だったというの……?
理由を聞こうにも、教えてくれないようだった。
『さて。高坂花梨。貴女も絵茉から殺すよう命じられてるの。さっさと殺らなくちゃね?』
私はエマちゃんの言葉が信じられなかった。
「どういうこと……?」
『そこを見ればわかるでしょ』
エマちゃんは横たわる絵茉を指す。
その視線の先には。

“高坂花梨”

そう赤い字で記されていた。
絵茉に裏切られた。えまにうらぎられた。エマニウラギラレタ。
絵茉に。えまに。エマに。エマニ。
「あ……ああああああああああああああああああああああ」
私の中で何かが崩れていく。
何かが、壊れていく。
と。

……むくり。

絵茉が。死んでいるはずの絵茉が……起き上がった。
「…………っ!?」
その絵茉の姿を見て、私は息を呑んだ。
なぜならその絵茉は、死んだ魚のような目をして顔も痩け、まるで別人だったから。
彼女はおぼつかない足取りで、とぼとぼと私に向かってくる。
「やだ……こないでっ!」
『逃がしませんよ?』
思わず退けるが、後ろにいたエマちゃんに捕まえられてしまう。
『花梨……』
「え……?」
絵茉から、やわらかい声が聞こえる。
『安心して。私と一緒に行こうよ』
私は簡単な人間だ。裏切られたのに、絵茉の声で安心してしまう。
私はもう、何もかもがどうでもよくなっていた。
「うん…………」
何も考えられず、ただ頷いた。

『さぁ花梨。醒めない夢の始まりよ――』

優しい、優しい声と共に。
私の意識は、無くなった――。

………………ぐちゃり。