この列車は恋人駅行きです。




濃厚なチョコの甘みとそれに絶妙にココアの甘みもマッチしてすごく美味しい。



ここまでチョコとココアがマッチしたガトーショコラなんて初めて食べた。



食感もまろやかで食べやすい。
でもこのガトーショコラ、甘いだけじゃない。



「……甘くて美味しいです。
でも甘いだけじゃなくて少し苦味もありますね」


「そう!それです!」


「え、ちょ……っ!?」



ありのままの感想を言ったら向かいに座っていた遠野さんはいきなり椅子から立ち上がってテーブルに身を乗り出して私に顔を近づけた。



驚いて反射的に椅子を後ろに引いてしまった。



「このガトーショコラ、僕がパリで修行してた時に師匠に初めて褒められたケーキなんです。

甘い中にもほんのり苦味がある。
これって初恋みたいじゃないですか?

初恋ってとびきり甘いこともあれば、叶わなくて苦くて辛いこともある。
かと思えば時間が経てば甘くて酸っぱい思い出となる。

初恋に色んな"味"があるように、スイーツにも色んな"味"がある。
僕の作ったスイーツを食べて自分の初恋や今までしてきた恋、今してる恋を見つめてほしくてこの店の名前をつけました」


「……っ」



言葉が出なかった。



というか何も言えなかった。



ここまでしっかり意味を考えていたなんて思わなかった。



初恋って店の名前なら可愛いでしょ?みたいに軽い感じでつけたのかとばかり思っていた。



私は遠野さんをそうやってチャラ男だからとか決めつけて馬鹿にしていた。



ほんとはスイーツに対してすごく熱くて、どこまでも求め続けてる。



遠野さんは成功者じゃない。
スイーツの可能性をどこまでも追い続ける探求者だった。