この列車は恋人駅行きです。




「……2人で…?」



背後から声が聞こえて裕臣先輩と2人一斉に振り返る。



そこには壁に寄りかかって腕を組んだ遠野さんがいた。
表情はいつもの王子様スマイルなのに、それが怖いと思うのはどうしてだろう。



「な、何か飲み物持ってきますね。
南条はコーヒーでいいだろ!?」


「え、はい…ってちょっと!」



先輩これ逃げたよね!?
というか先輩の方が遠野さんの扱い慣れているんだから私に押し付けないでよ!



次の飲み会で絶対小彩連れてってやる…!



「…随分とヒロくんと仲いいんだね?」


「…ヒロくん?あ、裕臣先輩のことですか?
実は高校の時の先輩なんです!

先輩、ああみえて高校の時は野球部で丸坊主だったんですよ!?
私は野球部のマネージャーやってて、先輩は漫画に出てくるような野球バカでしたよ」



思い返すと懐かしいな。
あんな頭の中野球しか考えていなかった先輩が急にパティシエになるって言って、パリに留学したんだもんね。



今となってはその夢は成功してよかったけど、あの時は必死にやめたほうがいいって止めたんだよね。



あまりにも不釣り合いすぎて。



「…というか遠野さんからひろくんなんて呼ばれているんですね。
……ぷっ。今度私も呼んでみようかな」



そしたら絶対「お前馬鹿にしてるだろ」って怒るにきまってる。