この列車は恋人駅行きです。




「…えっと……Premier Amour(プルミエ・アムール)、か…」



移動しながら言い慣れない言葉の練習をする。



地元の情報誌【komura】の編集部である私の会社は、特集を組むと誰かしらが取材へと赴く。



「今度うちでスイーツ特集をすることになってさ。
話題のスイーツ店を取材しようと思って、候補を二つに絞ったんだ。

その一つを南条に取材に行って欲しい」



櫻井先輩が言った仕事内容を頭の中で思い返す。



取材に行くのはいいけど、私は全くと言っていいほどスイーツに詳しくない。



こんなんで大丈夫なのかな。



不安に思いながらも睦月さんがくれた資料に目を通す。



「"パティシエは遠野慎一、30歳。
若くして数々のコンテストに優勝し、27歳で自身の店・Premier Amour(プルミエ・アムール)を長野駅前にオープンする。"

…へぇ、成功者ってこう言う人のこと言うのね」



我ながら冷たい反応だと思うけど、それほどまでに興味がない。



パティシエといえば高校の先輩もパティシエになるって言ってパリに留学してたなと、思い出す。



「"持ち前の明るい笑顔と甘いマスクから周囲の女性からスイーツ王子と呼ばれ話題となっている"」



ここでも王子か。
女子は爽やかイケメンには王子とか付けたがるよね。



私もその一人だけどさ。



資料を読みながら地図を見て行くと、駅の目の前に目的の店があった。