だけど現実にはそれはしなかった。亀山にも、自力で何とかしろよ、逃げるのはいい加減にしたらどうだ?って面と向かって言われたけれど。それはムカついたので、ヤツの机の引き出しに隠してあったチップスの袋の上に文鎮を置いて中身を粉々にすることで不快感を表明したし(当然ヤツは怒り狂った。だけど口喧嘩で打ち負かした)。
でも、それでも。
万が一を想定して。万が一、戦いを挑んで悪い方に転がり、あの子が私の宝物を奪ったら・・・。
正輝を失いたくなかったから―――――――――頑張ったんじゃないの。それは心の中で呟いただけだったけれど。
「・・・ちょっとは大人になったのよ、私も」
そう言って肩を竦めると、ふうん?ってからかうような返事が来た。
カウンターの下で、マスターに隠れて手を繋ぐ。
彼は判ってる、と頷く。
でもきっと全然わかってないのよ、私が考えてることなんか。男ってそんなものよ。特に、私の愛しいこの男は。その鈍さにイライラして、恋人になる前はよく慰めたり諌めたりしたものだったもの。
だけどいいの。その正輝が、私が好きなのだから。
酔いもいい具合にまわってきた。
それにお腹も空いて来た。
時刻は20時、夜はこれから。
私の目を見て正輝が優しく聞く。そろそろ、行こうか?って。
最後の一滴を飲み干して、ゆっくりと、大きな笑顔で頷いた。
「run and hide2~春の嵐編~」終わり。



