うふふと私は笑う。そしてマスターに教えてあげた。私があの子から隠れるためにした、色々なことを全部。
「真似されるのが嫌なら、彼女の視界に入らないのが一番でしょ?どうしても集中しなきゃならない仕事があって、もう本当に死にそうだったんです」
可哀想に、大変でしたね。そうマスターが言いながら、ふと考える顔をした。
「そういえば去年はこの店でも隠れてましたもんねえ・・・」
ぼそっと呟く。私はそれが何か?と首を捻ってみせた。確かに、隠れたよね、そのカウンターの中に。正輝から逃げていて、彼がいきなり店に来たから仕方なくだったのだ。そして正輝に情報を提供しかけたマスターの足を叩いたりもしたのだった。うむうむ。
「翔子は逃げ隠れが好きなのか?」
チョコレートを齧りながら正輝がそうからかうので、私はハッキリと首を振る。
「いいえ、戦いを挑んで勝つのが好きよ」
普段なら、勿論そうしていたはず。だけどタイミングが悪かったのだ。それに、女経験は豊富なくせに中身が薄かった初心で鈍感な正輝が彼女の毒牙にかかったら、と思うと公衆の面前で大爆発も出来なかった。
勿論夢の中では何度も彼女を締め上げたのだ。
首根っこひっつかんで壁におしつけ、ナイフを顔すれすれにぐさぐさと何本も突き立てながら。罵倒して蹴り上げてふわははははは~!!って仁王立ちになって高笑いするまでの夢も見た。



