皆、言葉が出ないようだった。
周囲のテーブルからは好奇の視線が寄越される。その中で、呆然として、田中さんが去って行ったドアの方向を全員で見つめていた。
「・・・わお」
私がそういうと、田島君が呆れた笑顔で振り返った。
「俺、自分の彼女があんなんだったら自己嫌悪で死にそうです」
その言葉にくくく、と牛田辺さんが笑う。聞きました?あの子、財布もってきてないから、ですって、って。
「すげーよな、財布持たずに飲み屋にくることが」
亀山がそう言うと、彼女は果たして本当に財布をもっていなかったのか、という話題でテーブルの上が盛り上がった。
いや、持ってるでしょ。でも男が支払うべきだって思ってるタイプよありゃ。いやあ~、もしかしたら本当にもってなかったかもですよ?持ってるけど金が入ってないってことに俺は1000円賭ける。とかとか。
そして、嵐のような彼女が去って行ったことは皆で綺麗に忘れて、楽しいお疲れ様会へと移行していったのだった。
よく飲んだ。そしてよく吸った。よく笑った。
私はすごく私らしかった。
例えスーツでも、スカートでもパンツでも。ネクタイしてようがスカーフをまいてようが、やっぱり梅沢は梅沢だよ、そのハチャメチャなところがな、って亀山が笑う。腹立たしいことに、その言葉にあとの二人も頷いていた。梅沢さんは、例え丸坊主でも梅沢さんです、って。
だけど私は上機嫌だった。
嵐は去って、仕事も終わった。しかも成果は上々。
これであとは、愛しくて泣きたくなるような彼に会いにいくだけ――――――――――――



