そして、正輝は戻って行った。じゃあな、と爽やか~に挨拶をして。彼が注文したコーヒーは一口飲まれただけで放置されている。やっぱり不味かったんだ、と残された私はそれを見て笑っていた。
「・・・やれやれ」
一人で呟く。それから、ゆっくりと周囲を見回した。忙しいはずのモーニングタイムなのに閑散とした喫茶店。お湯のわく音、それから店内の音楽。窓の外では6月の陽光が降り注ぎ、今日も忙しく街は動いている。
勇気が出てきていた。
それから、ここ最近なかった笑顔も。
目尻の皺も、ホウレイ線も、この際なんでもオッケーしちゃうわ。眉間の皺だって今なら許しちゃうかも。もう何でもドーンとこいよ。とにかく仕事を片付けて、そのあとで自分への御褒美としてすんごい高い保湿クリームも買ってやる。それから一流のエステティシャンの予約も。何なら高級スパの会員権も。
それで5歳は若返ってみせるんだから!
怖い物しらずになっていた。だって私は恋人と仲直りが出来たのだから。正輝が見方になってくれる、それってこの世の中には何一つだって怖いものなんてないって本気で思わせてくれるのだから。
にっこりと微笑んで私は立ち上がった。
よし、仕事を終わらせよう。
私はヒール音を響かせて、歩き出した。



