正輝になにか褒め言葉をもらうと、すぐに興奮するたちであるのを自分で忘れてしまっていた。だけどそこで、禁欲生活の原因となった出来事を無理やり頭の隅から引っ張り出して、空咳を我慢してからぼそっと言った。

「真似されたから、自分が変えることにしたの」

 正輝はちょっと体を引いた。

「・・・それに、服装も。パンツスタイルにしたんだな。翔子、スカーフなんて使ってたっけ?」

「真似されたから、変えることにしたのよ」

「・・・あー・・・」

「真似されるのが、本気で我慢ならなかったのよ」

 正輝は黙った。

 オレンジジュースが運ばれてきたのでそれをひと口飲んで、私はゆっくりと呼吸をした。泣かないように気をつけるのよ、私。今日はクライアントとの現場視察もあるし食事会でのミーティングもある。朝から頑張ってきたアイメイクを崩れさせないように、頑張りなさい!

 よし、十分な気合を自分に入れてから、姿勢を正す。

「正輝」

 彼は真面目な顔をしていた。多分、緊張もしていたと思う。

「私があの子に対して言ったことは、ただの嫉妬ややっかみじゃない。何なら亀山に聞いてくれたらわかるけど、あの子は1か月でほぼ“私”になった。そして私はそれを不快に思ったのよ。誰かが会うたびに自分そっくりになってくる、それって普通に考えたら気持ち悪いことじゃあない?だから、自衛のために逃げることにしてるの」