run and hide2~春の嵐~



 ハッキリいって、ぞっとした。

 彼女は私に気がつき、嬉しそうにお帰りなさい~!と言って、私から戦闘威力を奪ってしまった。私は元気なく手をひらひらと振って、また外へと逃げ出したのだ。

 真似っ子は、彼女は好意を持っているからやっているのだ、と皆に認識されているから始末に悪い。それに徐々にだったし特に奇抜な格好なわけでもないから、皆変には思ってないようだった。牛田辺さんも田島君も何も言わなかった。亀山だけは呆然と椅子に座る私の頭に書類をのせていったけど、やっぱり無言だったし。

 私はちょっとづつストレスがたまって、もう爆発寸前ってところだった。


 友達だった正輝を諦めるために、彼の好みの外見をやめて自分の好きにしてきたのだ。それはまだほんのちょっと前のことなのに。やっと自分の好みで自分を着飾ったら、後輩にそれを真似されている。

 で、よ。で。

 どうして私があの素敵なジン・トニックを飲めないかというと!

 まだ田中さんの真似っこがそこまで酷くなかったころ、退社時間が早かったときに彼女と出入り口で出会い、せがまれてあの店へと連れて行ったことがあるのだ。

 まだ、彼女は私の中で可愛い新人だった。入社してほんの数日後のことだったと思う。

 だからせがまれて、自分のお気に入りの店へと連れて行った。

 そして彼女は、それ以来よくあの店に出入りしている。

 私がららら~と飲みに出かけて、ドア越しに彼女を発見してしまったからだ。私がいつも座るカウンターの端っこに、黒いスーツ姿の髪色の薄い女性が座っていた。そしてマスターと楽しそうにお喋りしていた。

 私は咄嗟にドアの前から離れて身を隠してしまった。その時の気分は説明出来ない。だけど一緒に並ぶのが嫌だったんだろうと思う。