run and hide2~春の嵐~



 社内にいると、絶えず目線があい、彼女は微笑みかけてくるのだ(それ自体に文句などいえるだろうか)。社内でランチやコーヒーやと思うものなら、あのラブリーな声で一緒してもいいですかあ?と追いかけてくるし(情けないことにダメよ!とは言えない・・・)、それに最近ではより私に似てきつつあるのだ。

 髪型、服装、靴や鞄にいたる小物類、化粧室の個人ロッカーに置いてある化粧ポーチはポーチそのものも中身も一緒だし(目撃した人事の百合が教えてくれた)、その化粧で施すメイクも私がよくするラインなのだ。

 アイラインの入れ方、それにノーズシャドーの入れ方も。

 背丈は違うし勿論顔立ちも行動も歩き方も話し方も違う。だけど、パッと見はほとんど私といっていい。

 だけどその変化は徐々に行われたことで、気がついたら「あら、これも同じ?」状態なわけだった。

 いつでも外まわりで外出しっぱなしの私は気がつかなかった。昼間は外で、夜間に企画の整理をしている私は基本的には企画以外の人間、総務や人事などの人間には時間が違って会わないのだ。たまにランチをするとき、喫煙コーナーでタバコを吸うときに、そんな話を聞くくらい。

 社内の、遠慮なしで有名な会計の吉内が、「梅沢、最近はよく社にいるんだな~、って思ってたらお前じゃなかったからビックリしたよ~。お前、いつ双子になったんだ?」と笑いながらからかってきたので、判ったことだった。

 田中さんが歩くことで、梅沢がいるのだ、と認識されるらしい。外見がほぼ一緒だから。それは懇意にしている出入りの保険会社の営業さんにまで言われて、私は愕然とし、急いで企画部へとすっとんでいった。そして確かに見たのだ。窓際で、牛田辺さんと一緒に仕事をしている「私」を!