run and hide2~春の嵐~



『梅沢さん、その鞄素敵ですね~!彼氏さんからのプレゼントですかあ?』

『梅沢さん、今日のピアス可愛いです!いいなあ、そんなのあたし持ってないなあー。あたしも大きいの、試してみようかなー』

『梅沢さん、爪の手入れはどこでやってるんですか?あたし事務だけど、やっぱり爪は綺麗にしておくにこしたことないですよね!』

『梅沢さん』

『梅―――――』


「ああ、喧しいっ!!」

 屋上の鉄扉を勢いよくたたきつけて、私は足音荒くコンクリートの床を踏みしめて歩いた。うるせえんだよおおおおお~!壊れたおもちゃみたいに名前を連呼するなっつーの!

 今日も晴れの一日で、午後5時半の今、ビル群の向こう側には鮮やかな夕焼け空が広がっている。

 ふう、と呼吸を落ちつけて、私はタバコを手に屋上を手摺まで歩いて行った。

 もう意識してない動きでタバコに火をつける。深く深く吸い込むと、喉のところがジンジンと痛み、夕日の眩しさもあって視界が滲む。

 ・・・ああ、ジン・トニックが欲しい。

 綺麗で繊細な泡が細かく立ち上るあのうっとりする飲み物を、ゴクゴクと喉を鳴らして飲み干したい。

 あの店の、あのジン・トニック。いつものマスターが魔法をかけながらいれてくれる、あの素敵なゴールドのキラキラ光る液体が――――――――――


 ・・・・飲めない、のよね。


 マジで浮かんできた涙を指先で払って、私は一人、屋上で大きな大きなため息をつく。