ありがと、と何とか呟いて、私はこれからの予定に頭を切り替えた。
何か、不快だったのだ。
まだ独身なのか、と暗に落とされたことが嫌だったのではなく、何か、彼女の話方というか、そういうものが気に入らなかった。
これ以上会話を続けるのが突然嫌になってしまったのだ。説明出来ない漠然とした不満が心を満たしていくのを感じて、私は急いで頭を振る。
「さ、行きましょ。次はアポなし訪問だから、ちょっと気合いれてね」
「はーい!」
午後の都会のアスファルトは、照り返しが厳しかった。
田中さんにはっきりとした不快感をもったのはそれが最初だった。
多分、そうだと思う。
とにかくその日はどこへ行っても彼女は「ちゃんと」顧客に可愛がられ、「あたしって営業にむいてるのかも~」と可愛らしく笑っていた。
ふんわりとカールをいれたハニーベージュの髪の毛が揺れる。赤い唇、7センチのヒール。彼女の笑顔が瞼の裏で揺れ、亀山の言葉が頭の中で蘇った。
『梅沢が二人いるみたいだな』
だけど私はその日は自分が不調だったのだ、と決め付けて終えることにした。生理前だし、普段よりもイライラしているのは判っている。
今晩は正輝に会えないし――――――――とふてくされてビールをぐんぐんと飲み、最後はソファーでお涙頂戴の恋愛ドラマを見てケラケラと笑っていた。
・・・ああ、心がざわざわする。
滅多にないこんな夜は、正輝にそばにいて欲しい。
だけど仕方ないじゃない?同じ営業だけど会社が違う、あちらが忙しい金曜日の夜だ。
それに私は一人で何でも対処出来るはず。
だからだから、大丈夫―――――――・・・・。



