舌打ちをうちながら、有はスマホの電源を落とす。彼のバイト先から突然連絡がきたのだ。オーナーが言うには、お客さんの予約の数が増えたので、手伝いをしてほしいと。
有はパーカーを乱暴にはおって、限界に向かうと、スニーカーの踵を踏みなから外へ出た。

もう日付的には春だが、近所にある桜は咲いていなかった。

早朝のことだったので、中高生達が部活の朝練に登校していた。

まだ肌寒い中、路地を歩いていくと、前から一人の少女が歩いてくる。何やらフラフラしており、顔は髪のせいでよく見えないが、真っ青になっていた。正直少し不気味で、顔を合わせないようにして、歩いた。

しかし、やがて距離が近くなると、肩がぶつかった。有は焦りながら、すみませんと謝罪の言葉を口にすると、彼女は顔をぱぁっと明るくさせた。

「私が見えるんですか?」

ある意味それが、有と彼女の出会いだった。